世界の七不思議その3 エフェソスのアルミテス神殿
アルミテス神殿は、古代イオニアの港湾都市エフェソスに建てられた巨大な神殿。ギリシャ神話に登場する女神アルテミスを奉った総大理石の建築物です。
高さ20mの白大理石の円柱が127本も使用され、完成までに120年要したと言われますが、今ではその原型をとどめていません。
最初の神殿は紀元前700年ごろに建てられたそうです。それがキンメリア人によって破壊された後、紀元前550年ごろにリディアのクロイソス王によって再建されました。
それがなぜ、原型をとどめないほどに失われてしまったのでしょうか。
紀元前356年。無名のギリシア人、ヘロストラトスが放火したのです。
彼の動機は、「後世まで語り継がれるような悪事をしたい」という身勝手なものでした。捕まった彼は言い訳をするどころか、堂々と「自分の名を不滅のものとして歴史に残すため、最も美しい神殿に火を放った」と言ったそうです。
人々は当然怒り、死刑を宣告するのみならず、この先ヘロストラトスの名を口にするこを禁じ、歴史から抹殺することを決めました。もしこの取り決めを破る者が出たら死刑にするほどの厳しい内容です。有名になりたいがために蛮行を働く者の再発を防ぐためでした。
その後、人々はアルミテスの神殿を再建するにあたって、以前よりもはるかに立派な神殿を造ろうと考えました。
しかし、事件の混乱はアレクサンドロス3世の出産時期と重なったため、対応が遅れました。アルテミスはそのことで頭がいっぱいで燃えている神殿を救えなかったと表現しています。
後に、アレクサンドロス自らが神殿の再建費用を支払うと申し出ますが、人々は神が別の神を称えるのは適当ではないという理由でこれを断ります。
結局、神殿が再建されたのはアレクサンドロスの死後、紀元前323年になってからです。
それが残される運命にあれば良かったのですが、次に破壊の標的となったのはローマ帝国時代。皇帝ガリエヌスの治世の下、262年に再び放火にあいます。
ここで、神話から宗教への切り替わりが見られます。この時代は、エフェソスの人々の多くがキリスト教に改宗していく流れにあり、神殿はキリスト教徒によってことごとく破壊されました。その残骸や跡地を利用してキリスト教の教会が建てらたのです。
建物自体は残らなくとも、そこにまつわるエピソードは残ります。そして当時の人々が絶対に残したくなかった「ヘロストラトスの名声」も、現代まで語り継がれることとなりました。