タイヤキのシッポにアンを入れるべきか

敗戦による物心両面の荒廃から、やっと日本が立ち直りかけたころ、東京新聞の演劇記者で、のちに『巷談本牧亭』で直木賞を受けた安藤鶴夫(1908〜1969)は、東京・四谷のタイ焼き屋でシッポにまでアンが入ったのを見つけ、「いまどき、こんな良心的な」と、いたく感激したそうです。そして会う人ごとに吹聴したため、おかげでその店はすっかり有名になったと言います。

ところが、俳優の森繁久弥氏は『続・値段の明治大正昭和風俗史』(朝日新聞社)の「たいやき」で、「そのたいやきは私の時代のとは少々違っていた。尻っぽまでアンが入っているというので有名だという。値段を聞いて高級菓子なのに驚いた」と記しています。

おっしやるとおり鯛焼きは、もともとごく下野な食い物で、シッポに餡(アン)など入っていませんでした。

餡なしの、あのカリッとしたシッポの部分は、胴体のアンを食べたあとの口直しの効用もあったという説や、しっぽの部分は指でつまんで食べるための持ち手であり、餡は必要ないという説があります。

お好み焼きだって昔は関西では洋食焼き、関東ではドンドン焼きなどと呼ばれ、子ども相手の屋台のものだったのが、いまやしゃれたレストラン風の店もあって、若い女性に圧倒的人気を呼んでいます。

シッポまでアンを入れて、タイ焼きが高級菓子に化けたのも、ご時勢というものでしょうか。