ひょんなことの「ひょん」て何?
「ひょんなこと」という言葉には、「意外で奇妙なこと」「とんでもないこと」という意味があります。
この「ひょん」という響き、他の単語ではまず聞かないですよね。軽妙な語感が楽しいので、何かの音ではないかと思われがちですが、どうやら違うようなのです。
現在、これには二つの有力な説があります。
一つは、なんのヒネリもなく「ヒョン」という植物の名前から来ているという説。
柞の木(イスノキ)という植物があり、それを別名「ヒョンノキ」と言うので、この木にできる実が、卵形をしていて、毛が密生し、他にあまり類のない姿をしていることから、意外で奇妙な様子を指して「ひょんな」と言うようになったというものです。
もう一つは、漢字の「凶」に由来するという説。
江戸時代の学者、新井白石は「同文通考」の中で、「ものの良からざることをヒョンというが、それは『凶』という字の中国語読み(唐音)のヒョンからきている」と述べています。つまり「ひょん」とは良くないことを表しているというのです。
上記のうち、有力なのは後者の方だと言われています。
ところで、イスノキの説明に戻ると興味深い記述を発見できます。「ヒョンの実」の実態は、葉にアブラムシが寄生することによって膨らんだ「虫こぶ」だそうです。
この虫こぶ自体は、色々な植物に起こる現象なので特に珍しいことではありませんが、大きくなった虫こぶに穴が開いた時に、そこを吹くと笛のような音が鳴るので「ヒョンの木」と呼ばれるようになったそうなんです。
仮に「ひょん」の由来が「ヒョンの木」だとすると、そのまた由来は音ということになります。すると最初に否定した説も、あながち間違いではないということになりますよね。
あなたは、どちらの説を信じますか?
「ひょんなこと」の使い方の例文
- だが、話はこれで終らねえ。ひょんなことがありますのさ。/A・C・ドイル『シャーロックホームズ 黒ピーター』
- 気にするなよ、ぼくはきみとひょんなときに会えてうれしいんだ。/ハインライン『メトセラの子ら』
- 腕にゃ多少の覚えがあったもんだから、ひょんなことで知り合ったあるお貸元のところで、賭場の用心棒みてえなことをしていたんだ。/浅田次郎『壬生義士伝 上』
- とにかく今は、この男をここから引き離すことが先決だった。いつ何時、ひょんなタイミングで茶子が帰ってくるかしれないのだ。/万城目学『プリンセス・トヨトミ』
- 待ち合わせの場所に行く途中の電車の中でばったり会ったりすると、おやおやツキコさんこれはひょんなところで、などとセンセイはつぶやいた。/川上弘美『センセイの鞄』
- しかし、ぼくのことですから、この次に先生とお目にかかるときは、どこだかわかりませんね。たぶん、また、ひょんな所でしょう。/松本清張『赤い氷河期』
- 私自身は、日本密教の研究からはじまって、チベット密教の世界に入り、最近はこれまたひょんな因縁から禅の研究をするはめになった。/京極夏彦『鉄鼠の檻』
- その後十年近く、洋介からは音信が途絶えた。ひょんなことから洋介の消息を知ったのが昨年の二月だった。/大沢在昌『夢の島』
- 僕と井坂先生とは、ひょんなご縁で以前よりちょっとしたお付き合いがあった。/綾辻行人『どんどん橋、落ちた』
- ラゴンに、あまりに多い数を認知する能力が、セムと同じくないのか、あるいは、ひょんなことでグインの協力者となったこの子に、幼いためにそれがないのか、どちらかだろう。/栗本薫『グイン・サーガ 辺境の王者』
- 二人と一匹は、ひょんな理由から出会って、一緒に旅をすることになりました。/時雨沢恵一『キノの旅 第9巻』
- ひょんなコトから誰かに通帳を見られたら、俺の生活は破綻する。/奈須きのこ『DDD HandS』
- 久しぶりのうまい飯とはいえ、ホロの楽しそうな笑顔はそれだけで説明できるものではない。ひょんなところで故郷のヨイツに近づいてきたということが実感できて、予期せぬ贈り物をもらった少女のように本当に楽しそうだった。/支倉凍砂『狼と香辛料 III』
- みんながノルの遺体をかこんで、おいおい泣いていたとき。キットンがひょんなことを言い出したんだ。/深沢美潮『フォーチュン・クエスト 5 大魔術教団の謎』