リゾートバイト(18)

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坊さんの後に続いて、しばらく本堂の中を歩いた。別の部屋に移動するのかと思っていると、渡り廊下を渡って離れのような場所に通された。

その離れから、誰かの呻き声と低いお経を唱える声が聞こえてきた。

同時に、硬いもので畳を叩くようなバタン、バタンという音が響いて、その度に振動が足元にまで伝わった。

横開きの障子の前に立つ。後には引けない状況だ。バタンバタンという騒音が、すぐそこで鳴っていた。俺は中で何が起きているのか、見たいようで見たくはなかった。

坊さんが障子に手をかけて引いた。

そこに繰り広げられていたのは、僧侶たちが座禅を組んで部屋の中央に向かい念仏を唱える光景。中心には女将さんが横たわっている。それがときおり跳ねて、バタンバタンと大きな音を立てる。

俺たちは、はっと息を呑んで固まった。誰一人、部屋の中へ入ろうとしない。

女将さんは仰向けに寝かされていて、時折苦しそうに呻いた。痙攣した体が尋常じゃない力で浮き上がる。それが重力に引かれて畳に打ち付けられる。

俺は怖くて女将さんの顔を直視できなかった。昨日とは別人だった。俺の知っている誰とも一致しない。

坊さんは廊下に立ち尽くす俺たちを見た。

「この状態が、今朝から収まらないのです」

するとAが耐え切れない様子で、ここにいるの辛いです、と言った。

坊さんは障子を閉めると、少し離れた場所に俺たちを移動させた。

当初の勢いを失ったBが、自信なさげな声で坊さんに聞く。

「憑き物のお祓いは成功したんじゃないんですか」

坊さんは確かに、と言って頷いた。

「あなた方を親と思って憑いてきたものは祓うことができました。現にあなたたちがいて、〝臍の緒〟がここにある」

するとBは何かの大発見をした時のように目を見開いて、俺とAの顔を見た。

「そうか! 俺が見たのは1つじゃなかったんだ」

何を言っているんだ、と思った俺は、しかし直ぐに察した。

Bはあの時、2階の階段で複数の影を見たと言っていたはずだ。

「1つではない?」

坊さんは驚いた様子で聞き返し、Bがそうだと答えると、ふと考え込んだ。

そして俺たちが黙って待っていると、坊さんは急にはっと息を吸って体の向きを変えた。

「あなたたちは鳥居の家に行ってください。そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます」

俺たちの返事を待たずに、坊さんはそのまま離れの方に走って行った。

急に置いてけぼりを食らう格好となり、俺は坊さんの後ろ姿を目で追った。

それからしばらくそこに立っていた。離れから数人の僧侶が大きな布に包まれた物体を運び出してくるのが見えた。

その布が、じたばたともがくように動いた。女将さんだ、と全員が直感した。

その布の包を抱えたまま僧侶の集団が〈おんどう〉に移動する。

そこで俺たちは、はっと我に返り、言われた通り鳥居の家へ向かった。

 

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暗闇から見つめる視線

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