エレベーターの女の子

某マンションで起きた出来事。

ある時から、夜になると一人でエレベーターに乗っている五歳くらいの女の子が、住民に目撃されるようになった。

その女の子の乗ったエレベーターは必ず屋上で止まるという。

当然ながら屋上には部屋なんてないし、そもそも夜中に一人で小さな子供がエレベーターに乗っているのはおかしい。

ある日、そのマンションの住民が夜遅くに仕事から帰ってきた。

エレベーターホールに着くと、エレベーターがちょうど閉まりかけていたので、彼は急いでエレベーターに駆け寄り、ドアに手を入れギリギリのところでドアを開けた。

中を見た彼は思わず声を上げそうになった。

そこには五歳くらいの女の子が乗っていて、ボタンを見るとRの所にランプがついていた。

ひょっとしてこれが噂の女の子だろうか。乗るのをやめた方がいいんじゃないだろうか。でも目の前にいる子はいたって普通だし、怪しいところなんて特になさそうだ。ただの子供だ。そんなに怯えて逃げ出すのも少し情けない。

「何階ですか?」

女の子に声を掛けられて、彼は自分がしばらく相手を見つめ続けていることに気づいた。

小さい女の子に怯えるなんて馬鹿らしい。女の子はいたって普通だし、なんなら女の子をじっと見つめている自分の方が危ない奴みたいじゃないか。

「5階押してくれるかな」

彼は平静を装って言った。

女の子は背が小さいため、懸命に背伸びをして5階のボタンを押してくれた。

その姿が可愛らしくて、彼は女の子を怖がっていた自分を恥ずかしく思った。

エレベーターは何事もなく5階に到着した。

出ようとするときに、女の子は「さようなら」と言った。

彼も微笑ましい気持ちで「さようなら」と挨拶した。

女の子はとても感じのいい子で、彼は自分の家のドアに向かう廊下を歩きながらずっとその女の子のことを思い返していた。

 

その時、あることに気づいた。

そのマンションは10階建てであった。

彼の部屋は5階にある。

女の子は一生懸命背伸びをして、やっと5階のボタンを押せたのだ。

どうやって屋上のボタンを押したのだろうか。

 

 

暗闇から見つめる視線

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