歌手Aの放送事故

1988年10月3日。

埼玉県に住む少女が、強姦を受けた後に殺害されるという事件が発生する。

世を震撼させた殺人鬼は1989年7月23日、警察当局に拘束されるまでの間に、彼女以外にも3人の少女を殺害していたという。

この殺人鬼が逮捕される20日前、7月4日深夜。

その女性アイドル歌手N・Aは、当時絶大な人気を誇ったカップリング番組にゲスト出演していた。司会を担当するのは人気漫才コンビである。この日は「七夕特集」として放映されていた。

そして、問題のシーンは番組序盤に流された。

N・Aに、漫才コンビの片方N・Kが、彼女の理想の男性像(彦星)に対して質問する。この時、視聴者は皆、当時N・Aと交際中だった「男性歌手M・K」の顔を想像したはずであった。

しかし、意外なことにN・Aは今まで聞いた事も無い「ある名前」を口にしたのである。

漫才コンビは二人とも判らない表情をしている。しかし、すぐにN・Kが気づいて、N・Aに話した。

「それって、山崎務さんの間違いじゃないの?」

どうやら彼女は姓字で一字違いの、映画俳優の名前と間違えて伝えたようであった。

彼女はまずいと思ったのか、笑って取りつくろった。

その瞬間。

放送画面が突然、中断してしまったのである。

30分以上に及ぶ長時間の中断は、誰が見ても異常な状態だった。

これが後に有名となるAの放送事故事件であるが、問題はこの後だ。

彼女はこの放送の一週間後、7月11日に自らの手首を切り、自殺未遂を図る。

原因は先ほど記した、男性歌手M・Kとの破局であることが報じられた。

そして12日後、23日のニュースで世間は震撼する事になる。

今まで世を恐怖に落とし入れてきた「見えない悪魔」、連続幼女誘拐殺人犯が逮捕された(この時点では疑いの段階で、本逮捕は翌月8月10日)。

その時、アイドルが放送で口にした名前が殺人鬼の名前として知れ渡ったのだ。

奇妙な事に、彼女の自殺未遂と殺人鬼の間には、ある類似点が見られる。

彼女は自殺未遂の際に手首を切っているが、実はこの殺人鬼は「とう尺骨癒合症」(手の平を上に向けられない奇病)であり、その劣等感から幼児性愛に走り、少女の手首を切ったといわれていた。

このため「N・Aが生前の少女の真相心理にダイブしたために自殺未遂をはかった(シンクロ二シティ=共時性という特殊能力の一種)」とか、「カップリング番組が中断している時に少女の声を聞いた」とか、また「少女が歌手Aに憑依して殺人鬼の名前を呼ばせた」のだとか、いろいろな噂が流れた。

N・A N・A
暗闇から見つめる視線

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