今度は…

ある若いカップルの彼女が妊娠してしまった。

二人はまだ学生で、結婚する事も出来ず、誰にも相談出来ないまま、ただただ悩むだけだった。

上京したてで、半ば同姓状態の二人は、悩むばかりで時間だけが経っていった。

そしてとうとう彼女は、産まざるおえない体になってしまい、親に内緒で産むことになる。

しかし、まだ若い二人は赤ん坊を育てることも出来ずに、話し合った末に、その子を殺すことにした。

二人は真夜中に湖へと向かい、置いてあるボートに乗り込み、湖の真ん中辺りまで漕いで行った。

彼女は泣きながら何度も「ごめんね」と言って、小さな頭を撫でた。

湖の一番深いであろう場所に着いた時、彼の方が彼女をなぐさめ、そして赤ん坊を持ち上げた。

一瞬ためらったが、赤ん坊を湖にポチャンと落とした。

 

 

それから何年かして、そのカップルはようやく結婚することが出来るようになった。

二人の間に女の子が産まれ、今度は絶対に幸せにすると誓った。

その女の子が四歳くらいになったある日、突然、湖に行きたいと言い出した。

忘れるわけはない。あの事が頭によぎった二人は、何とか別の場所にしようと試みた。

しかし、あまりにしつこくだだをこねるので、仕方なく親子三人で出掛けることとなった。

湖に着くと、今度は「パパ、あれ乗りたい!」と言ってボートの方を指さした。

父親は渋々ボートを借りて母親と子供を乗せると、後ろ向きに湖へ漕ぎ出した。

しばらく進んだ後、ボートが沖合いに出た辺りで、女の子が「パパ、おしっこ!」と言い出した。

仕方がないので、周りに誰もいない時を見計らって、父親は湖にさせようと思った。

そして母親にオールを渡し、父親が女の子を抱っこして湖の方へ体を向けた。

 

 

その時。

 

 

娘がくるりと振り返り、目を直視して言った。

 

 

「今度は落とさないでね」

 

 

暗闇から見つめる視線

目録