鹿島さん（カシマさん）

時は第二次世界大戦の敗戦直後、日本はアメリカ軍の支配下に置かれ各都市では多くの米兵が行き交う時代だった。

ある夜、地元でも有名な美女（当時23歳）が一人、加古川駅付近を歩いていた時、不幸にも数人の米兵に強姦され、その後苦しみながら死んでいくのを楽しむため体の両腕両足の付け根の部分に銃弾を叩き込み、路上に放置した。

瀕死の状態をさまよっていた時、運良くその場を通りがかった地元の医者に発見され、再起不能の両腕両足を切り落とすことを代償に、彼女は一命を取り留めた。

しかし自分の美しさにプライドを持っていた女は、生きることに希望が持てずに国鉄の加古川線の鉄橋上で身投げ自殺を図った。車椅子で散歩に連れられた祭に、隙をみて車椅子を倒し、両腕両足のない体で身を捩らせるように移動し、鉄橋の下に突入する列車めがけて落下した。

警察や国鉄の職員が線路中に散らばった肉片を回収するも、不思議なことに首から上の部分だけが全く見つからなかった。しかし時代が時代だっため、数日間のうちにその事件は大衆の記憶から忘れ去られてしまった。

事件が起こったのは、数ヶ月後のある日。

朝は元気でいた者が、なぜか変死を遂げる事件が相次いで発生した。

しかも一軒の家でそれが起こると、近所で似たような事件が連鎖的に起こるという具合だった。

警察も本格的に動き出し、事件が起こった家庭への聞き込みを行っていくうちに、共通点が浮かび上がった。

当事者は、必ず死亡日の朝に「昨日、夜におかしな光を見た」ということだった。

実際に当時の新聞にも記載された事件であり加古川市では皆がパニックになった。

加古川所では事件対策本部がおかれ事件解決に本腰が入った。

そこで、ある警察官が事件の起きた家庭を地図上で結んでみると、あることに気がついた。

なんと、その曲線は手足と首のない人の胴体の形になりつつあったのだ。

こうなると当然、次はどのあたりの者が事件に遭うか予測をつけなければならない。

そこで前例にあった通り、「光」を見た者は警察に届け出るように、と住民に知らせた。

そしてやはり、曲線上の家庭で「光」を見たと言った者が死んでいく事件が続いた。

しかし、それは「光」ではなかった。

ある人物が死亡日の朝に語った内容。

「夜、なぜか突然目が覚めました。するとかすかな光が見え、見ているとそれはますます大きな光となります。目を凝らしてみると何かが光の中で動いているのが見えます。物体はだんだん大きくなりこちらへ近づいてきます。その物体とはなんと、首と両腕両足のない血塗れの胴体が肩を左右に動かしながら這ってくる肉片だったのです。ますます近づいてくるので怖くて目を閉じました」

同じような光景を見た者は必ず死に至った。

そこで次は自分だと予想した男が、恐ろしさのあまり加古川市と高砂市の間にある鹿島神社でお祓いをしてもらおうと尋ねた。

すると神主は状況を知って、その者に告げた。

「暗闇の向こうから恐ろしい恨みがあなたを狙っているのが見えます。お祓いで拭いきれない恨みです。どうしようもありません。唯一、あなたを守る手段があるとするならば、夜、肉片が這ってきても絶対に目を閉じずに、口頭で鹿島さん、鹿島さん、鹿島さんと三回叫んでこの神社の神を呼びなさい」

その夜、やはり肉片は這ってきた。

恐怖に耐えて必死に目を開けた男は「鹿島さん」と三回続けて唱えた。

すると肉片は男の周りをぐるぐると這った後、何事もなく消えてしまった。

これで終わりだと思った男は、旅先でまたその状況に遭い、怨みの深さに身震いしたそうだ。

その後、何人の者が当事者になったかは分からない。

非常に厄介なことに、この話を直接聞いてしまった者の元には、いつか肉片が近づいてくるという噂があることだ。

鹿島さん（カシマさん）には、色々な逸話があり、時代や地域によって語られ方は違う。

これを読んでいる人が鹿島さん（地元では幽霊の肉片を鹿島さんと呼ぶ）を見ないことを願う。

もし現れたら、必ず目を開けて三回「鹿島さん」と唱えることだ。