男だけ
深夜の高速道路を走っていたときの話。
その日は彼が運転する車の助手席に私が乗っていて、目的地もなくドライブをしていました。
トンネルが多くなる山道のあたりだったと思います。
それまで何気ない話で盛り上がっていたのに、急に話が途切れました。
ふと彼の方をみると、何故か必死の形相をして運転していました。
額には無数の脂汗がにじんでいたので、何かあったのかと思いました。
「どうしたの?」
私は心配になって話しかけましたが、彼はあせっているような、怯えているような表情で、運転に集中していました。
それどころか、息が荒くなり、車はどんどんスピードを上げて、前を走る車を次から次に追い越していくのです。
私は訳が分からずに、ただただ事故を起こさないことを祈るしかありませんでした。
車はようやく料金所を抜け、高速道路を下りました。
近くにあったコンビニに車を止めると、やっと彼の表情が和らぎました。
「ふう……」
私はほっとして改めて聞いてみました。
「ねぇ、一体どうしちゃったの?」
すると、彼が少し鋭い目つきで私を見ました。
「見えなかったのか?」
「え?」
私は彼の話を聞いてぞっとしました。
前を走る車の後ろに、白い服を着た長い髪の女が張り付いて、こちらを見ていたというのです。
しかも、彼がその車を追い越しても、次に走っている別の車には、同じ女が張り付いていたとのことです。
追い越しても追い越しても、その女は別の車の後ろに張り付いていたそうです。
高速を降りると、その女はもう見えなくなったと言ってました。
私には何も見えていなかったのです。
男だけに見える霊というのもいるのでしょうか。