バンバン
ある日、大学生のカップルがデートで山にドライブへ行きました。
夕方になって辺りが薄暗くなっってきたので、帰ろうとしたところ、道を間違えてしまったのか行きでは通らなかったはずの古びたトンネルに行き着いてしまいました。
陽が落ちて薄暗くなっていたせいもあって、少し気味が悪かったのですが、一本道なのでそこを通るしかありませんでした。
運転手の彼氏は、仕方なくトンネルの中に進入していきました。
助手席の彼女は、何となく嫌な感じがしてトンネルの中を見回しました。
すると……。
バン
車の後方から窓を叩かれたような音が聞こえました。
びっくりした彼女が後ろを振り向きましたが、特におかしなものは何もありませんでした。
バックミラーで彼氏が後方を確認しますが、後続の車も来ている様子はありません。
トンネルは古い形式で、オレンジ色のランプも灯っていませんでした。煤けた蛍光灯のような青白い色で、薄ぼんやりと照らされています。
彼氏は早くぬけ出そうと思って、アクセルを踏み込みました。
バン バン
また音が聞こえました。明らかに車体を直接叩いているような音です。
バン バン バン
バンバン バン バン バンバン
いたるところから車が叩かれ始めました。
恐ろしくなった二人は、とにかく急いでトンネルを抜けようと、猛スピードで車を走らせました。
人の居るところへ早く行きたいと必死に車を走らせ、二人はようやく山のふもとのガソリンスタンドに辿り着きました。
明るい電気の下で窓ガラスを見ると、大小様々な手形がびっしりとついていました。
二人は、はっと息を呑んで顔を見合わせましたが、彼氏は深刻な話にはせずに早く対処してしまおうと思いました。
店員を呼んで拭き掃除を頼み、すぐに作業に取り掛かる様子を無意識に眺めながら、二人は車内で茫然としていました。
店員がしばらく作業していた手を止めて、首を傾げながら運転席の横までやってきて、窓をコンコンと叩きました。
何かと思って彼氏が窓を開けると、店員が驚きの言葉を発しました。
「あのー、この手形、中からついてますよ」