遅いよ
僕は霊感が強い方で、過去に何度か実際に霊体験した事がある。
ある日、夜道を歩いていると前方から女の人が歩いてきたことがあった。
その女は膝の破れたズボンを履いていて、その隙間から血が流れているのが見えた。
歩き方や雰囲気から普通じゃないことが分かった。直感的に生きている人間じゃない、と思ったので、目を合わせないようにした。
過去の経験から、この霊に家までついてこられるのは不味いと思ったので、普段の帰り道とは全く違う経路をたどり、遠回りをしてから家に帰った。
予定よりも、かなり遅れた時間に帰宅した。
僕の家はマンションの四階で、エレベーター乗り場の左手にドアが見える。
僕は家の前に来たところで違和感に気づいた。
消したはずの電気がついているのだ。
間違いない。家を出る時は必ず電気を消す。
ゆっくりとドアに近づいてノブに手を掛けた。
鍵の方はしっかりと掛かっていた。
おかしいな、と思いながら鍵を開けた。
玄関に入ると、血のような痕が廊下の奥へと続いていた。
背後で扉が閉まる。
このまま入るか一旦外に出るべきか、迷った。
電気がついているのは玄関だけで、奥の部屋は暗いままだった。
不気味なほど静まり返った室内。ここはひとまず外に出たほうが良さそうだ、と思い後ろ手にドアを開けた。
ガン
何かに当たった。
振り向くと、さっきの血を流した女が目の前に立っていた。
やばい、と思ったのも束の間、女は僕の肩に手を伸ばし、掴みかかってきた。
「遅いよ……」