聞いた話

会社の同僚から聞いた話です。

実はこの話を聞いた後、私はこんな話を聞かなければ良かった、と後悔しました。

そのため怖い話しが苦手な人は、読まない方がいいかもしれません。

 

Fさんは会社の寮の二階に住んでいました。当時としては珍しくもない単身者向きの木造アパートです。

ある夜、Fさんは深夜の二時ごろ布団に入りました。

すると、家の外から「キィーーッ!」という車の急ブレーキの音がしたので、何ごとかと思って窓に向かいまいした。

Fさんは近所で何か騒ぎがあると、この窓からよく外を眺めていました。寮の建物が住宅街の路地に面しているため、救急車両のサイレンや商店街の喧騒が良く聞こえたからです。

窓のカーテンを開けようとした直後、誰かが寮のドアを強く叩きました。

 

ドンドン ドンドン

 

こんな時間に何だと思いながら、さっきの音は事故かもしれないと思い直して振り向きました。

 

ガチャ

 

ドアノブが回されました。Fさんは足を止めました。

なぜ勝手に開けようとするのか、相手の気がしれません。

まだ返事もしていないし、そもそも夜は鍵が掛かっているはずです。

気がつくと、Fさんは布団で寝ていました。

悪い夢かと思い身を起こそうとすると、体が動きません。

神経が冴え渡り、目に見える空間と耳から聞こえる音が、Fさんの意識にのしかかります。

誰かが一階で家の中を歩き回る音が聞こえました。

同僚ではないことは、なぜだかはっきりと分かりました。

 

 

トン トン

トン トン トン

 

 

共用廊下の階段を誰かが上ってくる足音が聞こえました。

 

 

トン トン トン

トン トン

 

タッ タッ タッ

タッ タッ…………

 

 

足音が自分の部屋のドアの前でピタリと止まるのが分かりました。

Fさんは心の中で必至に叫びながら、ドアの方を凝視していました。

入って来るな! 絶対に入って来るな!

強く念じていると、ドアの向こうの気配が消え、何も音がしなくなりました。

居なくなった、と思った直後。

 

 

天井から誰かがじっとこちらを見ている……

 

 

背中に嫌な汗が滲むのを感じながら、Fさんはゆっくりと、視線を天井へと向けました。

その光景を見て、Fさんは息が出来なくなりました。

 

 

頭から血を流した女が天井の隅にベッタリと張りついている。

 

 

髪は乱れ、肌は薄汚れて、服も破れています。

まるで蜘蛛のように手足を広げ、天井に張り付いている女は、何か言いたげに口をモゴモゴと動かして、Fさんを見ていました。

 

次の瞬間

 

ドンっという強い衝撃がFさんの上半身にのしかかり、そのまま意識を失いました。

翌朝、酷い頭痛で目覚めると、何事もなかったかのように部屋は静まり返っていました。

あの天井には何もなくなっていました。

Fさんは因果関係を知るのが怖かったので、事故のニュースなどを見るのは避けたそうです。

私が怖いと思ったのはこの後です。

 

実はこの話、聞いてしまった人の身にも同じ事が起こるらしいのです。

 

一週間以内に、家の前で車の急ブレーキ音が聞こえたら……

 

……気をつけて下さい。

 

 

暗闇から見つめる視線

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