影を見た

私が当時住んでいた家は二階建てで、私の部屋は二階にありました。

ごく普通の六畳です。東側には窓があり、西側の壁にベッドをくっつけるように配置していました。

私自身は、特に霊感が強いわけではないのですが、そのベッドで眠ると金縛りに合うことがありました。

物凄く怖くて、適当に知っているお経などを頭で考えていると、耳元で男の人が唸るような声が聞こえたり、沢山の子供の声が聞こえたりしました。

ある日、いつものように眠っていると、「なんだか金縛りに合いそう」という変な予感がして目覚めました。

窓の方に目を向けると、ブラインドから外の光が漏れていて部屋は中途半端に明るい状態でした。

しばらくすると体が動かなくなりました。

私は怖くなったので、このまま気にせず眠ってしまおうと思いました。

しばらく我慢していましたが、やっぱり部屋の雰囲気が気になって、目を開けてしまったんです。

 

窓から差し込む青白い月の光が、床に落ちて部屋全体をぼんやりと明るくしています。

私は仰向けの状態だったので、視界の右端に壁が見えました。

その壁を見ると、そこには影のような真っ黒い「何か」が私を見下ろしているような気配がありました。

なんとなく男の人のように思えましたが、真っ黒でよくわかりません。

部屋全体が薄明るいのに、壁の一部だけが黒いのです。

全体的に壁に張り付いているような感じで、目も鼻もありません。

それが壁の中から手を伸ばすように、動く気配を感じました。

私はとっさに体を動かそうとしました。その時、唯一動いたのが、左腕のヒジから先でした。

枕元を探ると携帯電話があったので、バックライトを点けました。

それから「何か」の気配が急速に遠ざかりました。

私はそこで脱力して急な眠気に襲われました。それ以降のことは覚えていません。

 

翌朝、目覚めると何事もなかったように部屋は普通でした。

 

そして月日は経ち、私は旅行先のホテルで友達にその話をてみました。

もう大分前の話だし、自分でも恐怖心が薄れていたので、友達を脅かしてやろうと思ったのですが……。

話が終わり、他の子がキャーキャー言ってる中で、A子が言いました。

 

「それって影だったの?」

 

「うん。真っ黒い人影だった。壁に張り付いてるみたいだったもん」

 

すると、A子は「うーん」と唸って腕組みをしました。

 

「ねぇ、影があるってことはさぁ、なにかが部屋にいたんじゃないの?」

 

背筋に寒気が走りました。

私がずっと横を向いて、その影をみているとき、反対側に影の本体がいたのかもしれないというのです。

私は色んな意味で怖くなりました。

金縛りにも合っていたし、むしろ霊的なものであってほしいとさえ思いました。

 

 

暗闇から見つめる視線

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