壁の気配

中学生の頃、私はずっと押し入れで寝ていた。

当然、中は広くもなく、体育座りをしてようやく体が入る程度の高さしかなかったが、小さい机と電気スタンド、漫画本や玩具を並べ、狭いながらもお気に入りの部屋だった。

その頃の私は、無類の怖いもの好きで、ホラー漫画やオカルト雑誌を貪るように読んでいた。

しかし、夜の押し入れの中は真っ暗で何も見えないため、寝るときは電気スタンドの電気を消さず、狭い部屋を煌々と照らして寝ていた。

中学二年の夏休みの中頃だった。

深夜になっても暑くて寝苦しいので、私はTシャツ一枚で掛け布団を横にどかして寝転がっていた。

半分寝ぼけた状態で、今何時だと思いながらうとうとしていると、今までに感じたことのない違和感を覚えた。

 

何かおかしい。

 

その時の体勢は押入れの奥の壁に背を向けて、横向きに寝ている状態だった。

左半身の肩が布団に埋まっている。襖の隙間から部屋の中が見えている。

でも違和感はそこではなかった。

 

 

誰かに見られているような気がする。

 

 

しかも後ろから。

 

 

しかし押し入れの広さは、せいぜい畳一枚分くらいで、子供一人がやっと横になれるくらいの大きさだ。

掛け布団は私の正面にあった。

乱雑にまとめて、簡易的な抱き枕のようにして寝ていた。

私は、何気なく掛け布団を抱く自分の腕の方を見た。

すると、自分の脇の下から白く細長い手が「にゅっ」と入り込んできた。

驚愕のあまり動けなかった。

自分の背後から手が伸びてくるということは……

 

 

 

……壁……

 

 

 

手と足が金縛りのようになって全く動かない。

思考だけが明晰で時間が早く過ぎているように感じた。

私は恐る恐る首を動かし、壁のほうへ視線を移そうとした。

するとそこには、死人のように白く、長い黒い髪の女が、押入れの壁に半分埋まった状態でこちらを見ていた。

女が口元を歪めて「ニィ」と笑った。

その直後、脇の下から伸びた手が腹の方へ移動し、押し入れの壁に引きずり込むように、ぐっと力を込めた。

私はそのまま意識を失った。

情けないことに、一瞬たりとも抵抗できなかった。

 

次の日、やっと目が覚めた時には昼過ぎになっていた。

夏休みだったため、親にも放置されていた。

体がだるかった。寝すぎたせいかな、と思った。

私はシャワーを浴びるために、風呂場へ行った。

すると脇腹のあたりに痣ができているのを見て、震えるほどの恐怖を覚えた。

それ以来、壁を背にして眠ることができないばかりか、ホラー漫画やオカルト雑誌も面白半分に読むことができなくなってしまった。

 

 

暗闇から見つめる視線

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