透けている女

学生の妹が「自然と触れ合える生活を体験する」というコンセプトの合宿に参加した時の話です。

自然に触れ合う、と言っても私たちの住んでいる場所は田舎なので、家から車で十分くらいの場所でした。

合宿一日目が終わった夜、妹から電話がありました。

もうホームシックになったのかな、と思って話を聞いてみると「ずっと何かに見られてる」と言うのです。

私の家族は昔から霊感が強いというか、その地の異変を感じやすい体質なので、妹が嘘を言っているとは思いませんでした。

その日は都合が悪く、妹も切迫している様子ではなさそうだったので、翌日に母と私で現地へ会いに行く事を約束しました。

次の日の晩。

私は母の運転する車で、その場所に行ってみました。

夏なのに、なぜか凄く肌寒い感じがしました。

まだ何も見てないのに鳥肌が立つほど恐怖を感じたのは、この時が初めてです。

アスファルトが切れて山道のような砂利道に変わりました。

キャンプ場みたいな所の入り口に妹が待っていました。

話を聞いて合宿場の裏の方にある森を見に行きました。

すると確かに森の方から視線を感じるような気がしました。

私たちは三人で懐中電灯を照らして中に入りました。

すると、木と木の間に何か違和感を覚えました。

うっすらと透けている、色白で細身の女がこちらを見ていました。

母が合図して、静かに音を立てないように、後ずさりました。

車に移動し、エンジンをかけようとしましたが、本当にかからなくなっていました。

私はどうしたらいいのか分からずにパニックになりかけました。

妹も動揺していますが、母は冷静でした。

とりあえず車に乗り込んで鍵を閉めなさいと言いました。

 

「あぁーもうそこまできてる! 車の中に入って来るかもしれない!」と妹が言いました。

 

すると……

 

 

ペタペタ ペタペタペタ

 

 

音が聞こえました。それは何度も何度も続きました。

フロントガラスに、さっきの女が取りついていました。

手形をつけるように手のひらをガラスに押しつけて、何かを呻いているように見えました。

 

 

ペタペタ ペタペタペタ

 

 

じっとりと湿っているのか、ガラスの表面に無数の手形がへばりつきました。

母がその場で何かを察知したのか、ヘッドライトを点けてワイパーを動かしました。

エンジンがかからなくても、電気系統は動くようです。

次の瞬間、エンジンがかかりました。

母は携帯を取り出し、妹は合宿を辞退すると連絡して、山を下りました。

私には何が起こったのか分かりませんでした。

母はそのまま逃げるように無言で車を飛ばし、家に帰りましたが、何も教えてくれませんでした。

 

「後で分かるから」

 

それが、私たち姉妹の聞いた唯一の言葉です。

後日、知り合いの霊媒師さんを連れて、もう一度山へ向かうことになりました。

妹が行きたくないと言いましたが、絶対に行かなきゃ駄目と言われていました。

霊媒師さんは母と一緒に森の方へ行き、妹をそばに立たせて何かをしていました。

二日後、警察の調べによってあの場所から白骨化した遺体が発見されました。

その身元は、妹と同じ年齢の十代の若い女の子だったそうです。

妹に発見して欲しかったんだな、と私は思うようにしています。

 

 

暗闇から見つめる視線

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