サッカー少年

昭和の時代、東京都下のお話し。

当時、子供たちの遊び場と言えば、公園か学校の校庭が主流でした。

小学生の男子は、学校が終わるとランドセルを家に放り込んで、みんなで野球やサッカーをやるのが日課でした。

ある小学校にK君という、とても活発でサッカー好きの少年がいました。

K君は、その日いつものように友人と遊ぶ約束をして、いちど家に帰りました。

日差しの強い暑い夏の午後でした。

K君は喉が渇いたので、麦茶を飲むために台所へ向かいました。

誰も居ない家は、しんと静まり返っていて、わずかに外の蝉の鳴き声が聞こえるだけでした。

汗をかいていたため、少し涼もうと思ったK君は、居間へ行って扇風機をつけました。

畳の上に寝転ぶと、心地よい風と蝉の声を感じました。

 

 

 

ミーン ミーン……

ミーン ミーン……

 

 

 

K君が目を覚ますと、もう陽が傾き始め、夕方になっていました。

「いっけねっ!」

K君は飛び起きて、サッカーボールの入ったボールネットを手にすると、家を飛び出しました。

K君は駆け足で学校の校庭に向かいました。

みんな怒ってるんじゃないかな。K君はそれだけが心配でした。

次の角を曲がれば学校が見える場所まで来た時、夢中になって走っていたK君をトラックが跳ね飛ばしました。

車道を無理に横断しようとしたK君の不注意だったため、トラックはスピードを落とすことが出来ずに、現場は酷い状況だったそうです。

事故の事を聞いた家族と友人たちは悲しみました。

しかし、不思議な事にK君が持っていったサッカーボールだけが、どうしても見つからなかったそうです。

 

 

次の年の夏、K君の通っていた学校で校庭に幽霊が出るという噂が流れました。

子供たちが言うには、その幽霊は一人でサッカーボールを蹴って遊んでいるとの事です。

しかし、おかしな事にそのサッカーボールは、いびつな形をしていて、全然弾まないのだそうです。

そしてなぜか、大人が目撃したいう事例は、ついに現れませんでした。

 

 

ある日、一人の少年がサッカーボールを草むらへ蹴ってしまい、日が暮れるまで探していました。

少年は膝の上まである長い下生えを掻き分け、汗を垂らしながら探していました。

校舎から遠く離れた雑草の生い茂る場所でした。

昭和の時代は東京といえども畑や雑木林などいくらでもあったため、校庭も空き地を開拓した造りが多かったようです。

森に隣接した場所から草むらが伸びていて、その途中にフェンスがありました。

少年はフェンスの方に向かって、少しずつ草の中を進みます。

 

 

「ここにあったよ!」

 

 

突然声を掛けられた少年は、びっくりして顔を上げました。

一緒に探してくれていた友だちなんていたっけ?

そう思った直後。

 

 

 

真っ赤な血で染まった生首を掲げ持つ首の無い少年の幽霊を見ました。

 

 

 

少年はその場で気絶し、意識が戻るとそこは病院でした。

昨日の出来事は何だったんだろう、と少年は思い出そうとしました。

そこでふと、脳裏に焼きつく蝉の鳴き声が離れない事に気づくのです。

 

 

 

ミーン ミーン……

ミーン ミーン……

 

 

 

あのサッカーボールはどこにいったんだろう。

 

 

暗闇から見つめる視線

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