肝試し

ある高校生のグループが、友だちの家に集まって受験勉強をすることにしたそうです。

男子4人、女子4人の集団でした。

最初の1時間は集中してやっていましたが、次第に気が散って私語が増え始めた頃です。

誰かが気分転換に怖い話をしようと言い出しました。

季節は夏でした。蒸し暑い、クーラーの効きにくい日でした。

夜もふけてきた所で、調子に乗った男子が肝試しに行こうと言い出しました。

女子も遊び盛りで勉強にも疲れていたので、外の空気を吸いたがりました。

場所は彼らの通う学校、と安易に決められました。

深夜の学校に忍び込む――本当の目的は男女が好きな者同士でペアになる事です。

 

夜の学校はそれだけで怖いものでした。いつも通っていて親しみのある校舎も、何だか違う威圧感を感じます。

早速、彼らは男女ペアに分かれて、1組ごとに学校の周りを一周することにしました。

校内には入れないため、1周するだけならゆっくり歩いても20分くらいだろう、と予想しました。

最初の1組が決まって出発しました。皆でひやかしながら、カップルの背中を見送ります。

しかし彼らは、20分経っても戻ってきませんでした。

「2人っきりで何やってんだろうね」と女子の一人が言いました。

男子もそれを聞いて盛り上がりました。

30分経っても戻らないため、1組目の戻りを待たずに2組目も出発しよう、ということになりました。

彼らが出発した後、残りの4人は時間を確かめました。

40分ほど経っていたそうです。しかし1組目は戻ってきません。

仕方がないので、3組目は1組目を探しながら一周してくると言いました。

そして、3組目が出発しました。

このころ、4組目の女の子は何か嫌な予感がしたと言います。

4組目の2人は話し合って、誰かが戻って来るまで待とうと決めました。

校舎の方は相変わらずしんと静まり返っていました。

 

30分が、あっという間に経過しました。

 

1組目が出発してから、既に1時間以上が経過しています。

さすがに何かおかしいと男子が言い出しました。女の子は声に出さなかっただけで、とっくにおかしいと思っていました。

さらに数十分が過ぎた時、男子がいてもたってもいられない様子で言いました。

「俺が様子を見てくる。もし30分経って誰も戻ってこなかったら警察に行ってくれ。絶対に一人で探しに来るなよ」

そうして一人取り残された女の子は30分待ちました。

誰も戻ってこないまま、時間は当然のように過ぎ去りました。

もう少し待ってみよう、と思いながら女の子はどうしていいか分からずに泣き出しました。

 

交番に現れた少女を見た警察官は驚きました。深夜に顔を腫らすほど泣きじゃくっている女の子は、一人で動転している様子でした。

事情を聞いた警官は、とにかく女の子と一緒に学校へ行くことにしました。

その前に、警官は女の子に自分の親に連絡するように言いました。携帯電話のない時代だったので、交番の電話を借した方が早いからです。

両親は寝静まっていたため電話に出るのが遅れました。当然、深夜に出歩いていた娘を叱ろうとしましたが、場所が交番であることを知ると一転して心配しました。

警官は電話を代わってもらい、他の行方不明になった子供の親の連絡先を聞き、順に電話をしていきました。

 

警官は女子生徒をパトカーに乗せて現場に急行しました。

呼び出された親たちも心配そうにしながら学校に到着しました。

現状の説明を受けた大人たちは、学校中を手分けして探すことにしました。

二人一組に分かれて、懐中電灯を片手に深夜の敷地内を練り歩きます。

それは夜明けまで続きました。あらゆる場所を調べ尽くしたはずですが、一向に生徒たちが見つかる気配はありませんでした。

すると、体育館の方を調べていた親がこっちに来てほしいと言って、全員を集めました。

皆は「見つかったのか?」と口々に言って、早足に体育館の裏へと向かいました。

体育館の裏には焼却炉の跡地と、古くなって閉ざされたままの旧体育倉庫がありました。

皆を集めた親は唾を飲み込んで「後はここしかない」と言いました。

急を要する状況のため、警官は扉の鍵を壊して中を確認する、と言いました。

錆びついた錠前はなかなかに頑丈でした。

しばらく悪戦苦闘してから、ようやく鍵が壊されました。

全員が固唾を呑んで、その場に立ち会いました。誰も口を聞こうとはしませんでした。現実を見たくないからです。

警官が、覚悟を決めて扉に手をかけました。

漆黒の闇に懐中電灯を照らすと、そこには驚くべき光景が広がっていました。

旧体育倉庫の天井からロープが吊るされ、いなくなった7人全員が首を吊って死んでいたのです。

残った女子生徒は、その場で泣き崩れました。親達も悲鳴を上げて動揺しました。

 

その後、警察が全員の聞き取りを行い、子供たちに自殺する動機が無いことが判明しました。

しかし、他殺されたような外傷や抵抗した痕、証拠や根拠も全く掴めなかったため、結局「受験生の集団自殺」として処理されました。

鍵の掛かった旧体育倉庫の中にどうやって入ったのか、また彼らが何故そのような状況に陥ったのか、最後まで誰にも分からなかったそうです。

 

 

暗闇から見つめる視線

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