精肉工場

私が学生だった頃、冬休みに精肉工場でバイトした時の事です。

その工場は、コンビニの肉まんに使うひき肉が大量に出るため、連休の間は学生のバイトを雇って人手を補っていました。

私は自分で稼いだ金でバイクを買うという目標のために、なるべく出勤して稼ごうと思っていました。

仕事内容は、決められた事をひたすらこなしていく、いわゆる流れ作業で、だいたい他のバイトもポジションが決まっていました。

その中で一人、いかにもいじめられっ子にいそうなタイプの学生がいました。私とは違う学校でしたが、名札には「内田」と書いてあったので、覚えていました。

彼は私の予想通り、バイトの同期ともあまり接する事なく、淡々と仕事をこなし、仕事が終わるとさっさと帰ってしまうようなタイプの人間でした。

バイト仲間の間では、すでに「アイツは暗い」「真面目な割に仕事が出来ない」「いつかヘマをやらかす」と噂になっていました。

 

 

そして、とうとうその時が来てしまったのです。

 

 

ある日を境に「内田」は姿を消しました。

その後、社員の人にバイトが全員呼び出されました。

何事かと皆で騒いでいると、社員の人が深刻そうな顔で言いました。

「本来、こういう事はアルバイトの君たちには言いたくないんですが、取引先から苦情が来てしまったので」

そう言って少し間を置くと、その社員は驚くべき事を口にしました。

「どうやらウチが出荷した挽肉の中に、猫の死骸が混入していたらしいんですよ」

それを聞いた瞬間、私は瞬時に「内田」の顔が頭に浮かびました。

アイツだ――アイツがやったに違いない。

「そんな事があるはずはないと思って、昨晩機械を調べたんですが、確かにあったんです。動物の体毛や入っているはずのない肉が」

社員の人は言葉を区切り、私たちの顔を見回しました。私は反応を伺っているのかと思い、できるだけ平静を装いました。もちろん関与しているわけではないのですが。

「犯人があなた達じゃない事は分かっています。ですから、この事に関しては社員に任せて下さい」

その場にいた全員が、ほっと肩の力を抜くのが分かりました。

「誰かに何かを聞かれたとしても、分からない、とだけ答えて下さい」

特に大きな騒ぎにもならず、その事について誰にも聞かれる事はありませんでした。

冬休みを無事に終えて給料も無事に手に入れました。

 

 

いま私が思い出してもゾッとするのは、その後「訳アリの肉」がどうなったのか、「内田」がどうなったのか、当時のバイト仲間に聞いても誰一人として知らないという事です。

 

 

暗闇から見つめる視線

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