リゾートバイト(2)

リゾートバイト(1)を読む

1週間が過ぎた。

「俺たち、なかなかいいバイト見つけたよな」とAが言った。

「ああ、しかもたんまり稼げるしな」とBが返す。

2人の会話に同意しつつ、俺は双方の顔を見た。

「そうだな。でももうすぐシーズンだろ? 忙しくなるぞ」

「そういえば、シーズンになったら2階は開放すんのか?」とAが言った。

「しねえだろ。2階って女将さんたちが住んでるんじゃねえの」とBが言った。

俺とAは「え、そうなの?」と声を揃える。

「いや分かんねぇけど。でも最近女将さん、よく2階にメシ持ってってないか?」とBが言った。

俺は「知らん」と返した。Aも首を横に振った。

Bは夕方の玄関前の掃き掃除を担当しているため、2階に上がる女将さんの姿をよく見かけるのだという。女将さんは、お盆に食事を乗せてそそくさと2階へ続く階段に消えていくらしい。

その話を聞いた俺は「へ〜」とか「ふ〜ん」みたいな感じで相槌を打っていた。その時は別になんの違和感も抱いていなかったからだ。

それから数日後。いつもどおり廊下の掃除をしていた俺は、偶然それを見てしまう。客室からこっそり出てくる女将さんを。

女将さんは、基本的に部屋の掃除など現場の作業に手を出さない。それらは全て美咲ちゃんの仕事だ。だから余計に怪しく見えたのかもしれない。そんなわけで記憶に残っていた。

初めは見間違いかと思った。でも、あれはやっぱり女将さんだ。その日一日を悶々とした気分で過ごした俺は、部屋に戻ってから友だちに話をした。

すると、Aが口を開いた。

「それ、俺も見たことあるわ」

「おいマジかよ。なんで言わなかったんだよ」と俺は言った。

「だって、何か用事があるんだくらいに思ってたし、疑ってギクシャクすんのも嫌じゃん」

「確かに。Bは?」

「それは見たことないね」

その時、俺たちのバイト期間は残り1ヶ月近くあった。そのため、3人で話し合い、事を荒立てないように見てみぬふりをするかどうか決めることにした。

するとBが最初に提案した。

「じゃあ、女将さんの後をつけてみりゃいいじゃん」

「つけるってなんだよ。この狭い旅館で尾行したって直ぐにバレるだろ」

Bは口元の片方を上げて肩をすくめた。

「まあね」

とはいえ、俺に名案が浮かぶはずもなかった。3人で考えても答えは出ない。

来週には残りの2人がここへ合流する予定だった。何事もなく楽しい一夏が過ごせればそれでよし、と考えることもできた。

結局、俺たちは「なにか不審なものを見たら互いに報告し合う」ってことにして、その日は大人しく寝た。

次の日の晩。Bが同じ部屋にいる俺たちをわざわざ部屋の一角へ招集した。お前が来いやと思ったが、Bの元へ渋々集まった。

「俺さ、女将さんがよく2階に上がるっていったじゃん? あれ、最後まで見届けたんだよ。いつも女将さんが階段に入っていくところまでしか見てなかったんだけど、昨日はそのあと出てくるまで待ってたんだよ」

俺は無言でうなずき、話の続きを促した。

「そしたらさ、5分くらいで降りてきたんだ」

「そんで?」Aが言った。

「女将さんて、いつも俺らとメシ食ってるよな? それなのに盆に食事のっけて2階に上がるってことは、誰かが上に住んでるってことだろ?」

「まあ……そうなるよな」俺は考えながら言った。

「でも俺らは、そんな人を見たこともないし、話すら聞いてない」

「確かに、誰かがいるなら一緒に働く俺たちにも話くらいはすると思うけど、病人かなんかっていう線もあるよな」

「そう。俺もそれは思った。でも5分で完食するって、病人じゃなくてもありえなくない?」

「そこで決めるのはどうかと思うけどな」Aが言った。

「でも怪しくないか? お前ら怪しいことは報告しろっていったじゃん?」

Bは少し苛立ちを見せた。

確かにBの話を聞いて少し不気味な印象を持った。

俺は、2階に何があるんだろう、と想像した。

他の2人も、多分そんな想いでいっぱいだったんだ。

 

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暗闇から見つめる視線

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