クレヨン

ある売り出し中の家の修復作業をするために、相方と二人で現場へと向かった。

外装はすでに他の業者が終わらせていたので、内装作業を担当する自分たちは午後に行くことになっていた。

現場に到着すると、もう外装作業は終わっていて、誰もいなかった。

さっそく状況を確認するために家の中へ入る。

内装はだいぶ古く、壁にヒビが入っていた。

すると、廊下にクレヨンが落ちていることに気がつく。

以前ここに住んでいた子供の落し物か何かだろうと思って、そのまま奥へと進む。

すると、廊下に面した二階に上がるための階段の上にも、クレヨンが落ちていた。

不思議に思ったが、それぞれ作業に入るために手分けして部屋を見に行く。

しばらくすると、二階の部屋を見に行っていた相方が階段を駆け下りてきた。

ドタバタと足音を立てて下りてきたので何事かと聞いた。

「やばい、やばいよ!」

どうやら二階にもクレヨンが落ちていたらしく、部屋の中を覗くと小さな女の子が立っていたという。

声を掛けようとすると、突然スーッと消えていなくなってしまったそうだ。

相方の顔が青ざめていて、その様子を見た自分も、背中にじっとりと嫌な汗をかいていた。

一旦、とにかく外へ出ようと廊下に戻ると、ある事に気がついた。

廊下に面した階段の端から、トイレの入り口までの間の壁に、違和感があるのだ。

壁に薄っすら見える等間隔の溝が、この部分だけおかしい。

不自然な間隔で溝が出来ている。

相方が拳の甲の部分で、軽く壁をノックする。内装業をする者なら誰もがやる、壁の材質を調べるみたいに。

 

 

「薄い……」

 

 

どうせ内装工事で塗り替えるんだし、いいだろうということで、ヒビの入った内壁をはがしてみることにした。

二人で古ぼけた壁紙を剥いでいくと、ベニヤ板の裏にドアノブの無い扉のようなものが出てきた。

取っ手がついているはずの部分には、小さな板でふさがれたあとが見える。

壁より10cmほど窪んだところに扉があることから、この扉は押して開けるタイプだということが分かった。

手で少し押してみるが、開かない。

そこで、足で蹴り破ってみることにした。

本当は許可なくそういう事をしてはいけないのだが、その時は考える余裕がなかった。

相方が無言で自分の方を見る。

無言で頷きあって、呼吸を合わせる。

 

 

「せーの!」

 

 

二度目の蹴りでドアノブのない扉がバンっと開いた。

ムッとする空気が内側から漏れてきたが、そんな些細な不快感は一瞬で吹き消えた。

 

 

「クレヨンだ……」

 

 

相方の乾いた声が耳に入った。階段下の物置のような小部屋。その壁に赤いクレヨンでびっしりと文字。

 

 

 

 

 

おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして おとうさんだして

 

 

 

 

 

おとうさんだして

 

 

 

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