みぎ・ひだり

私は小学生の頃に怖い体験をしました。

私が住んでいた町には廃墟がありました。

二階建ての古いマンションみたいな建物で、壁はコンクリートでできていました。

一階の窓ガラスはほとんどが割れていて、壁も汚れてボロボロだったので、地元の大人たちも近づきませんでした。

そのため、近所ではマイナーな肝試しのスポットになっていたのです。

私はある日、友人と肝試しをすることにしました。

夜は出歩けないし、暗くて怖いので、昼間に廃墟へ行ってみようということになりました。

休日の午後二時過ぎだったと思います。

建物に入ると、がらんどうとしていて、内壁が壊されていることが分かりました。

二階まで上がって建物を探索しました。

廊下に出ると扉が並んでいて、そのうちの一つに落書きがしてありました。

友人と一緒に扉に近づいてみると、赤い文字でこう書かれていました。

 

 

わたしは このさきの へやに いるよ

 

 

子供が書いたような可愛らしい文字でした。

私たちは扉を開けて中に入り、先へ進むことにしました。

扉の奥は、また通路になっていて、その突き当りがT字路になっていました。

通路の突き当たりまで行くと、その壁にまた文字が見えました。

 

 

わたしは ひだり に いるよ

 

 

少し怖くなったけれど、私と友人はそのまま左に進むことにしました。

すると両側に扉がいくつか並んでいる場所があって、その一箇所に別の文字を見つけました。

 

 

あたまは ひだり

からだは みぎ

 

 

友人はこれを見た瞬間に、悲鳴を上げて逃げてしまいました。

私は友人を追うか、その先を見ようか迷いました。

だってまだ昼間だし、お化けなんか出ないよね、と思いました。

私は右側の扉を開けました。

部屋に入り込むと、自然に文字を探しはじめていました。

私はこの建物が何のために建てられたのか知りませんでした。

普通の家ではないような気がしました。

壁や柱は頑丈で、天井も高く感じました。

窓が一箇所だけに取り付けられていて、光が一方向から伸びていました。

私は、ここを調べたら帰ろうと思い、窓の反対側に開いた壁の切れ目を覗き込みました。

その先に文字が見えました。

暗がりに赤い文字が浮かんでいます。

少しだけ足を進めて何もない部屋に入りました。

 

 

 

わたしの からだは このしたにいるよ

 

 

 

私は足元を見ました。そこにも文字がありました。

 

 

 

ひだりの へやから わたしの あたまが きてるよ うしろ みないでね

 

 

 

私は大急ぎで、その部屋から飛び出しました。

さっき来た方向とは反対側にも扉がありました。

私は手当り次第に扉を開けて、通路の先に階段を見つけると、一階へ駆け下りて外に出ました。

友人が心配そうに駆け寄ってきたので、すぐに離れようと行って、公園に行きました。

 

 

あの時以来、私はその建物に近づきませんでした。

もしあの場所から引き返して、元の扉を開けていたらどうなっていんだろう、と考えることもあります。

廃墟は数年後に取り壊されてしまったので、真相は分かりません。

 

 

暗闇から見つめる視線

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