リゾートバイト(4)

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部屋に戻ってしばらくするとAとBが戻ってきた。

「おい、大丈夫か?」とAが言った。

「なにがあったんだ? あそこに何があった」とBが聞いてきた。

俺は何も答えられなかった。というよりも、耳にあの音たちが残っていて思い出すのが怖かった。

するとAが慎重な面持ちで、変な質問をしてきた。

「お前、上で何食ってたんだ?」

質問の意味がわからずに聞き返すと、Aはとんでもないことを喋り始めた。

「お前さ、上に着いてからすぐにしゃがみこんだだろ? Bと俺で何してんだろって目を凝らしてたんだけど、なにかを必死に食ってるように見えたぞ。というか、なにかを口に詰め込んでるようだった」

「うん。しかも、それ……」

Bが言いにくそうに俺を見る。

2人の視線が揃って俺の胸元に注がれたので、俺もつられて下を向いた。

自分のシャツの胸元に大量の汚物がこびりついていた。

そこから当然のように食物の腐敗した臭いが立ち込めてくる。俺は一目散にトイレに駆け込み、胃の中のものを全部吐いた。

なにが起きたのかわからなかった。

階段の上に行った記憶はあるし、あの恐怖の体験も鮮明に覚えている。

俺はただの一度もしゃがみこんでなどいない。ましてや、あの腐った残飯を口に入れるはずがない。

でも確かに、俺の服には腐った残飯がこびりついている。よく見れば手にも、それを掴んだ痕跡があった。

俺は気が狂いそうになった。AとBが後ろに立っていた。

「何があったのか話してくれないか? ちょっとお前、尋常じゃないぞ」とAが言った。

恐怖に負けそうになりながらも一人で抱え込むよりはましだと思い、さっき自分が階段の突き当たりで体験したことを、ひとつひとつ話した。

AとBは、とにかく頷きながら真剣に話を聞いてくれた。

2人が見ている俺の姿と、俺自身が体験した話が完全に食い違っていても、最後までちゃんと聞くという姿勢を取ってくれた。俺は、それだけで安心感に包まれて泣きそうになった。

話し終えてほっと一息ついたとき、足がひりひりと痛むことに気づいた。

なんだと思って見てみると、細かい切り傷が足の裏や膝に大量にできていた。

目を凝らしてよく見ると、なにやら細かいプラスチックの破片ようなものが所々に付着しているようだった。

赤いものと、黒みがかった白い破片。

俺が足の裏から剥がした破片をまじまじと見ていると、Bが何それ、と言って手を差し出した。

Bに破片を渡すと、Bは米粒を観察するみたいに顔を近づけ、直後「ひっ」と悲鳴を上げて床にそれを放り投げた。

「な、なんだよ」

Aも反射的に、破片から遠ざかるように退く。

Bは床に落ちた破片を指差して「それ、よく見てみろよ」と言った。

Aはそれに応じなかった。

「なんだよ、言えよ恐いから!」

「つ、爪じゃないか、それ」

Bが言った瞬間、俺とAは固まった。

そのとき、俺の脳裏に階段の上で聞いた音が再生された。やっぱり、あれは爪で引っ掻く音だったんだ。

そして、階段を上るときに鳴っていた「パキパキ」っていう音も、床に大量に散らばった爪を踏みつける音だろう。

さらにその爪は、壁の向こう側にいた何者かのものなんじゃないか、という想像が働く。

きっと膝をついて残飯を食ったときに、足の裏以外にも傷ができたに違いない。

でも、もうそんなことはどうでもいい。

とにかく、こんな所にいちゃだめだってことだ。

俺はAとBに言った。

「このままここで働けるはずがない」

AとBは同意した。

「そうだな」

「俺もそう思う」

「明日、女将さんに言おう」と俺が言うと、2人は驚きの表情になる。

「言うのか?」

「仕方ないよ。世話になったのは事実だし、一応謝らなきゃいけないことをした」

「でも、今回の件では女将さんが怪しさナンバーワンだよ? もしあの場所に行ったって話したら、どんな反応するのか俺見たくない」

「バカ。普通に辞めるって言うんだよ」

訂正を加えると、2人はほっとした表情で頷いた。

「ああ、そっちのほうがいいな」

そういう流れで、俺たちはその晩のうちに荷物をまとめ、布団を2枚くっつけて3人で並んで寝ることにした。普段の俺たちなら考えもしない。むさ苦しく男同士で添い寝をするなんて。でもこの時は怖くて余裕なんてなかった。

しかも、その夜はなかなか寝られなかった。3人でぽつぽつと話し合った。誰一人として寝息を立てるやつはいなかった。

そうして明日を迎えることになるんだ。

 

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暗闇から見つめる視線

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